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No.12

つつい・やすたか
 1934年大阪府生まれ。SF黎明期の1960年にSF同人誌「NULL」を主宰。著作に「虚人たち」(泉鏡花文学賞)、「夢の木坂分岐点」(谷崎潤一郎賞)、「ヨッパ谷への降下」(川端康成文学賞)、「わたしのグランパ」(読売文学賞)など多数。俳優としても活動中。

「小説新潮」に「銀齢の果て」を新連載

久しぶりでエンターテインメントの長篇を「小説新潮」に連載しはじめた。第一回目は現在発売中の新年号に掲載されている。タイトルは「銀齢の果て」で、厚生労働省が、今や爆発的に増大した老人人口を調節し、若者の負担を軽減し、それによって破綻寸前の国民年金制度を維持し、少子化を相対的に解消させるため、老人相互処刑制度、つまりシルバー・バトルを実施するという話である。複数の者が生き残った場合は全員処刑されるとあって、老人たちは必死になって殺しあいを始めるのである。

喫煙論の出てくる冒頭部分を少しご紹介しよう。主人公の宇谷九一郎は、バトル開始直後に囲碁友達の正宗忠蔵の家にやってくる。おとなしい正宗に殺しあいをさせるにしのびず、自らの手で殺そうとするのである。正宗は「最後に、煙草を一服喫わせてくれ」と頼む。

「時間はたっぷりあるさ」

忠蔵は缶入りピースから一本抜き取って銜えた。
 「そう言やあ、あんた、わし以上のヘビースモーカーだったなあ」

九一郎がそう言うと、忠蔵はやや饒舌に喋りはじめた。「健康に悪い、なんていうのは結局、お為ごかしだな。そんなに健康に悪いのなら、年寄りにはもっとどんどん喫わせたらよかったんだ。子供にだけ喫わせないようにするのが一番だ。そしたら自然と老人が減って、相対的に少子化なんてものはなくなる筈だろ。ところが政府はそんなことしなかったし、したところで、見なさい、わたしみたいに長生きする者はいくらでもいる。結局こんな事態になっちまった」
「ああ。そうだな。わしだってずいぶん喫ったが、この通り健康だしな」そう言いながら九一郎はワルサーの安全装置をはずした。

拳銃のことに疎い忠蔵は気がつかずに、旨そうに煙を吐き出して喋り続ける。「確かに健康には悪いだろうさ。よくはない。だから老人には喫煙をやめさせるべきじゃない。ついこの間まで、健康診断に行くたびに、かかりつけの女医が『あなたにはまだまだ活躍して戴かないと。だから煙草はやめて』なんてことを言っていた。活躍させるのか禁煙させるのか、どっちかにして貰いたいもんだ、とわたしは思ったね。わたしのこの健康状態で禁煙したら恐らく百歳はいくよ。そんなに生きてどうすると言いたいね」

笑いながら忠蔵は、灰皿の縁で煙草を揉み消した。時間をかけて覚悟させるに忍びなかったので、九一郎は自分の方に向けられている忠蔵の頭頂に拳銃を発射した。閉め切られていた室内に、銃声は大きく響いた。白髪の分け目に赤い穴があいただけで血は出ず、忠蔵はそのままテーブルに顔を伏せて動かなくなった。初めての人殺しだったので九一郎は激しく嘔吐感を催した。


ここまで読んで、読者は飛びあがる筈だ。ここからがますます面白くなります。さあ。ただちに書店へ行き、「小説新潮」新年号をお買い求めください。

今月のお薦め

わが家から徒歩二分、炙り焼の「七厘」を褒めよう!

明治通りから青山通りに向って十数メートル、右側の「ラコステ」の横の道を入って右側、ベルピアというビルの地下一階に、この店がある。その道をさらに進めば二分でわが家の前に出る。

この「七厘」は肉、魚介類、野菜、なんでもかんでも前に置いた炭火の七輪で炙って食べさせる。ただし自分で炙らなければならない。食材は産地直送だから新鮮である。狭い店だからいつも混雑しているが、おれは早い時間に行くので、楽に座れる。八人から十二人掛けのテーブルがひとつ、四人掛けが三つで、あとはカウンター席が八つである。

もちろん、煙草は自由に喫える。煙が七輪の煙と共に上部の穴へただちに吸い込まれて行くからである。焼酎、日本酒は豊富に揃っていて、料理は安い。おれの好みは旬の貝類で、ハマグリ、牡蛎、帆立、サザエなどが自分の好きな焼き加減で食べられるのがよい。料理は他に、岩手地鶏のヒマラヤ岩塩焼と、霜降り豚トロの辛味噌焼が八百円、極上ミノの和風たれが千百円、牛フィレミミの韓国風が千二百円、焼物以外にも、アフリカ産駝鳥のタタキなどという珍品があるぞ。宴会用のコースもあるらしいが、ずいぶん安いと聞かされた。

おれはしばしば妻と一緒に行く。四人掛けのテーブルの中央にでんと置かれた七輪に、次つぎ出てくる食材をそれぞれ自分で網に乗せて焼きながら食べるのは、まことに乙なものであります。