special

No.12

つつい・やすたか
 1934年大阪府生まれ。SF黎明期の1960年にSF同人誌「NULL」を主宰。著作に「虚人たち」(泉鏡花文学賞)、「夢の木坂分岐点」(谷崎潤一郎賞)、「ヨッパ谷への降下」(川端康成文学賞)、「わたしのグランパ」(読売文学賞)など多数。俳優としても活動中。

アメリカに行かない理由

嫌煙権運動が激しくなってきたのはいつ頃からだったろうか。

もちろん、日本がこんなことになる以前だが、アメリカで嫌煙権運動が激しくなっていることは再再新聞などで報じられていたので知ってはいた。そしてこの風潮、いずれ日本にも飛び火することであろうと、実は危惧していたのである。結果はその通りの、悲しむべき嫌煙権ファシズムとなった。

ある時、こんな記事を読んでおれは顫えあがった。

嫌煙権運動をやっているお婆ちゃんが街頭に立ち、銜え煙草でやってくる者を見つけると、手にした鋏でもってその煙草をちょきーん、と、ちょん切るというのである。

まったく、なんということをするのか。鋏の狙いがそれて眼でも突いたらどうするつもりだ。男がこんなことをすればたちまち殴り倒されるであろうが、相手がお婆ちゃんではどうしようもない。ああいやだいやだ。アメリカなんかへは、絶対行かないぞと、このときに固く決意したのである。

ところが今年になって、アメリカ行きの、しかも嫌煙権運動がいちばん激しいと言われているニューヨークへ行く話がもちあがったのだ。蜷川幸雄演出・三島由紀夫作「近代能楽集」のニューヨーク公演に出演しろというのである。「卒塔婆小町」と「弱法師」の二本立てで、わしが出るのは藤原竜也が主演する「弱法師」の方である。これは以前から何度も上演されている芝居で、一度はロンドン公演にも行ったのだが、飛行機の中さえ我慢すれば、当時ロンドンではどこでも喫煙できたものだ。

ところがニューヨークとなれば話が違う。ほとんどの店では禁煙で、おそらく劇場内も禁煙であろうし、街頭へ出て喫えば鋏のお婆ちゃんにちょきーんとやられるのではたまったものではない。見ず知らずの歩行者が喫煙しているのを見かけると、近寄ってきて罵倒する若い女もいるというではないか。

何が悲しくてそんなところへ行かねばならんのだ。最近血圧が高いという事情もあり、おれは公演への参加を固くお断り申しあげたのである。おれの役を誰が代わりにやるのかは知らないが、代役が立ったことで、おれの芝居が下手なために降されたと勘違いする人がいるやも知れぬ。そうではなく、前記のような事情であるということをこの際はっきり申し上げておくので、諸賢におかれてはくれぐれも誤解のないようにお願いしたいものである。

それかあらぬか、最近民主党から、「混雑している街頭での銜え煙草を犯罪として取り締まる法案」が提出されるとかされたとかいうではないか。なんでそんなに嫌煙権運動におもねるのだ。支持者があきらかに減ると思うが、それでもいいのか。少なくともおれはもう民主党には投票しないし、この欄を読んでくれているわが三十七万ファンもそうであろう。だいたい、混雑しているかどうかをどこで判断するのだ。混雑している街頭での煙草の喫いかたをおれは書いたが、そのようにこっちだって気を遣っているのである。まったくもう、いい加減にして欲しいもんだ。

今月のお薦め

エスキス表参道4Fのレストラン「RETOH」を褒めよう!

わが家への道は表参道に面した「CHRISTIAN DIOR」と、ファッション・ビル「エスキス表参道」の間を入るのだが、そのエスキス表参道の四階に、今月お薦めのジャパニーズ・ダイニング「RETOH」がある。

店内は広くて、一枚ガラス越しに見える屋上庭園も広びろとしている。この庭園に面したソファの席が最上席ということになるだろうか。われわれ夫婦が常に案内される席である。レストランというよりは、なんとなく高級クラブという感じで、ウエイターもウエイトレスも、ソファの傍にひざまずいて注文を聞いてくれるのである。

もちろん、煙草は喫える。喫えないのは奥のバー・カウンターとその周辺だけだ。メニューは和洋中と豊富で、値段も安い。一部紹介するならば、豚しゃぶのサラダ仕立て梅おろし千百円、岩手県花巻産白金豚の黒胡椒焼き千六百円、鳥取産大山鶏のつくね九百円、北海道産たらば蟹の天麩羅千六百円、ソフトシェルクラブの唐揚げ九百円といったところである。これ、おれの好みの料理です。コース料理は三千円(レディースコース)から七千円(料理長の特別コース)まである。

酒も豊富に揃っていて、グラスワインの銘柄も多い。また、ランチメニューというのもあり、千八百円(RETOH御膳)から四千五百円(料理長のおまかせコース)まで。このほか、ガラスを隔ててパーティ用の部屋もあり、ここからは庭園にも出られる。

年中無休で夜は十一時半(ラストオーダーは十時三十分)までやっているから、仕事が遅くなった夜にでも、彼女を連れて行ってみられてはいかがかな。