special

No.12

つつい・やすたか
 1934年大阪府生まれ。SF黎明期の1960年にSF同人誌「NULL」を主宰。著作に「虚人たち」(泉鏡花文学賞)、「夢の木坂分岐点」(谷崎潤一郎賞)、「ヨッパ谷への降下」(川端康成文学賞)、「わたしのグランパ」(読売文学賞)など多数。俳優としても活動中。

小谷野敦氏とのファースト・コンタクト

去る十月十五日、パレスホテルにおいて、小生が選考委員をつとめている谷崎潤一郎文学賞の授賞式とパーティがあり、出席した。

立食がそろそろつらくなる年齢であり、実際には小生よりも老齢の人はたくさんいるのだが、まあ自分は文壇の年寄り格であると自ら断じて、前の方のテーブルで飲んだり食べたり煙草を喫ったりしていると、こっちに話のある人は向こうからやってきてテーブルにつき、何やかやと談じては立ち去っていく。

そんな何組かのあと、会ったことのない二人連れがやってきた。ひとりが名刺を出し、筑摩書房の編集者であると自己紹介したあと、もうひとりの人物を見て紹介もせずににやにやしている。その人物は来たときからにこりともせず、しきりに自分の名刺をあちこち探すふうである。いったい何者かという興味で観察していると、不機嫌を絵に描いたようなその中年の男性はやっと名刺を探し出して提示した。なんと「小谷野敦」である。

ここを読んでいる人で、小谷野氏の名を知らぬ人はいないだろう。文芸評論家にして、最も過激な反嫌煙権論者である。

「なあんだ」というので、以後親しく話したのであったが、この小谷野氏はそのあともまったく笑わない。評論家たるに相応しい、まさに不機嫌の時代たる現代を体現したような人物であった。

話のほとんどは言うまでもなく煙草のことであり、嫌煙権者たちの悪口であった。小生はこのGo smoking のことを話し、参加を願ったのだが、こちらの意に反して小谷野氏は首を横に振った。嫌煙権とは喧嘩しないという主宰者の方針が気に食わないというのである。

あながちそうではない、と小生は言った。小生は主宰者に、いつか喫煙者と嫌煙権論者とで公開シンポジウムを開き、論争する場を持とう、そして嫌煙権論者をこてんぱんにやっつけようと提案したことがあり、主宰者もそれには賛成していた。だから小谷野氏にもぜひそのシンポジウムに参加していただき、いつもの強烈な反嫌煙権の論理を展開していただきたいと願ったのであるが、彼はこれにもかぶりを振った。嫌煙権論者は馬鹿ばかりであって、論争するに値いしないというのである。それはわかっているが、だからこそ彼らの馬鹿さを公開の席で露呈させようではないかと言ったのだが、最後まで承知してもらえなかった。

そのあと、小谷野氏自身の反嫌煙権の言動を話していただいたのだが、これはまことに面白かった。最近彼は千代田区の路上を喫煙して歩きまわったらしいが、誰にも咎められなかったという。巡回をやめたのか、あるいは小谷野氏の名が知られていて、論争になるのを避けたのか、どちらかわからないそうである。

他にも面白い話を聞いたのだが、忘れてしまった。なんとしてでもここへ参加してもらい、嫌煙権への毒を噴出させていただきたいものである。主宰者には、ぜひ彼に執筆を乞うていただきたい。高額の稿料を払うと言えば、あるいは彼も仕事と割り切って書いてくれるのではないかな。あはは。

追記

上記エッセイに対し、小谷野敦氏から次のようなメールがありました。 全文を引用します。

(引用開始)

佐藤さま

古い話で申し訳ないですが、今日必要があってふと見たら、筒井康隆氏が私と会った時のことを書いている文章が未だに載っているのに気付きました。シンポジウムについて、私はああいうことは言っておりません。どうか、下に訂正を入れてくださいませんか。

私が言ったのは、「そのようなことをしても新聞は報道しないだろうし、『議論はすれ違いに終わった』などと書くだけだから、無駄だ」ということです。なぜ事実を捻じ曲げるのか、よく分かりませんが。

小谷野敦

(引用終了)

筒井康隆氏はこれに対し、『お目にかかった直後に書いたので、記憶違いではないと思うが、お互いに思い込みの激しい方なので、どちらが正しいとも言えないだろう』ということだったので、表現にはいっさい修正を加えぬこととさせて戴きます。

2009年7月1日
Go smoking 友の会
会長 佐藤良一

今月のおすすめ

先月の「ロイヤル・コペンハーゲン」では諸兄にえらいご迷惑をおかけしてしまった。まさか書いてすぐ全店禁煙になろうとは夢にも思わなかったのである。

だからというわけではないのだが、今回の推薦は特定の店ではなく、ホテルのバーである。

ホテル内のたいていのレストランは禁煙である。少なくとも小生の立ち寄るホテルはみんなそうである。しかしホテル内のバーだけは喫煙できる。少なくとも小生の立ち寄るホテルのバーはみんなそうである。しかもホテル内のバーというのは、料理が豊富だ。これは同じホテル内のレストランから取り寄せできるからであって、だから和洋中華、寿司焼き鳥、レストランをやっている時間であれば、何でも食べることができる。

空腹時、飲みながら、煙草を喫いながら、いろんなものを食いたいというときは、ホテルのバーが最適である。居酒屋などに比べたら多少値段は張るが、恋人や家族を連れて居酒屋には行きにくい、多少気取った店へ行きたいというときはホテルのバーへ行けばよろしい。なに。値が張るといっても銀座のバーやクラブほどのことはなく、安心であります。